天使病（てんしびょう、Angelosis）は、極めて稀に発症する原因不明の疾患であり、
その主たる症候として、患者の背部に羽毛を有する翼が形成されることで知られる。
本症は、発症後数年以内に患者の生命を脅かし、発症後5年以上生存した症例は確認されていない。
その病理は未だ解明されず、発症機序についても確たる理論は確立されていない。
発症の初期において、患者は微細な疼痛と共に肩甲骨周辺に軽度の熱感を覚えることが多い。
その後、皮膚の異常な隆起が見られ、数週間以内にそれが軟骨様の組織へと変性し始める。
この過程において、患者はしばしば発熱、倦怠感、異常な食欲の増進または減退を訴えるが、
いずれも特定の疾病と鑑別することは難しく、初期段階での診断は困難を極める。
やがて、隆起した部位より羽毛が発現し、それが次第に大きく育ち、最終的には完全な翼の形状を呈するに至る。
この段階に入ると、患者は度重なる疼痛に苛まれ、筋骨格系の急激な変化により運動機能の障害を来す。
また、翼が成長するにつれ、体内の代謝機能にも異常が生じることが多く、血液成分の変化、呼吸機能の低下、
心拍の不整など、多岐にわたる症候が報告されている。
本症の最大の特徴は、発症後の経過が極めて特異である点にある。
翼の完全な形成を経た後、患者はしばしば体重の異常な減少を経験し、
皮膚の蒼白化、爪の脆弱化、視力の低下などが顕著となる。
その最期は一様ではないが、ある者は極度の衰弱により意識を失い、静かに息を引き取る。
また、身体が浮遊する錯覚を覚えながら命を落とす例も報告されている。
現代医学において、本症の発症要因は未だ不明のままであり、
遺伝的要素、環境的要因、あるいは未発見の感染症など、諸説が提唱されるも決定的な証拠には至っていない。
一部の研究者は、患者の細胞組成に通常のヒトとは異なる特異的な因子を確認したと主張するが、
それを発症の直接的要因と結びつけるには至っていない。
罹患者の神秘的な変化から、いくつかの伝承においては、本症を「選ばれし者の証」として語る向きもあり、
特定の儀式や霊的行為による救済を試みる例も報告されているが、いずれも科学的根拠を欠く。
また、発症後の症状緩和に対する有効な治療法は発見されておらず、
終末期においては医療用麻薬を用いた疼痛管理を中心とした緩和ケアが施行される。
天使病は、その症状の神秘性と不可避の死を伴うことから、単なる疾患としてではなく、
神話的・宗教的な文脈において語られることも多い。その本質が何であるのか、知る由はない。
※本テキストはフィクションです。